早稲田で最も面白かった授業を紹介します
それはヨットの授業です。
なんて贅沢な授業でしょう。俺はこの授業を受講するにあたってかなりの金額を投入しました。通常の授業と異なり、受講料や宿泊費が発生するのです。しかし、その金額を投資するにはリターンがデカすぎました。
- 夏休み真っ盛りに江ノ島でヨット遊び
- 最高の朝日を背に授業へ、最高の夕日を背にしてAirbnbの宿へ
- 物理法則やチームワークを海上で体感できる
ざっとまとめるとこのような3つのポイントが挙げられます。俺は商学部だったんだけど、どんな示唆深いケーススタディよりも、どんな真新しいマーケティング戦略の授業よりも、ヨットの授業が面白かったのです。
本稿ではヨットの授業の概要と、Airbnbを使って授業期間を最大限に面白くしたお話をします。
1. 夏真っ盛りの江ノ島でヨット遊び
非リア充の俺がリア充の巣窟とも称される江ノ島に訪れるには大変なハードルの高さがあります。気後れ必死、フランクフルトもおちおち頬張る暇もないでしょう。しかし、天はチャンスを与えてくれたのです。大学の授業を隠れ蓑に江ノ島で過ごせるのです。それもその辺の「リア獣たち」がバナナボードで発狂しているのをよそ目に、数キロの沖合でヨットを楽しむのです。9回2死フルカウントからの満塁逆転サヨナラヒーローインタビューの痛快さです。
ヨット授業の概要
早稲田大学のヨットの授業は毎年8月の初旬に江ノ島のヨットハーバーで行われます。朝9時頃に江ノ島ヨットハーバーに集まり朝礼、夕方5時頃には終礼をします。
ハーバーにはたくさんのヨットが保管されており、早稲田大学だけでなく様々な団体の本拠地となっています。リア充をやっとの思いで回避できたかと思えば、マリンスポーツを愛するかっこいお兄さんお姉さんたちの褐色の肌とオーラの眩しさに、またも戸惑いを覚えました。
ところでシラバスに目をやると、以下のようなことが記述されています。
2020年東京五輪でヨット種目は競技会場が江の島に決定しました。実技授業は世界各地から選抜されたヨット選手が競うこの江の島エリアで開催いたします。ヨットは艇体、セールという器具を用いて操作しますが、それよりも重要なことは吹いてくる風、流れる潮などの自然を相手にするスポーツです。また、ディンギー(小型艇)は2人、大学が所有する稲魂号(大型艇)は10人以上の乗員がお互い助け合い、コミュニケーションを取りながら行う組織、団体スポーツです。大海原でヨットを操ることでこれまでに経験したことのない感動に出会うことが出来ます。
早稲田大学webページ シラバス要項(科目名:ヨット)より抜粋
重要な2点は太文字にしました。まず「吹いてくる風、流れる潮などの自然を相手にするスポーツ」とあります。授業を受ける前は全く考えもしませんでしたが、要するに「海」が先生となり、物理の授業を大海原で開講してくれるというのに等しいのです。
次に「(中略)10人以上の乗員がお互い助け合い、コミュニケーションを取りながら(後略)」とあります。ヨットの授業ではクルーザーと呼ばれる比較的大型のものにも乗ります。このクルーザーでは誰か一人でも操作をやタイミング、判断を誤っただけでうまく航海ができないのです。この授業ではやはり「海」が先生となり海上という緊張感あふれた講義室で、チームワークの必要性を考えさせてくれるのです。
(画像:http://www.sashiire.jp/info/club_detail.php?id=76)
事前の座学含めた5日間あまりのヨットの授業。江ノ島では早稲田大学のヨット部のみなさんが授業のサポートをしてくださいました。ちなみに彼らはインカレ表彰台なんて当たり前、世界大会に出場し結果を残す者も決して珍しくないほどの実力者ばかりです。
2. Airbnb利用との相乗効果が面白度を天文学的数値に
この授業、受講にあたって一つだけ課題がありました。それは4日間にわたり江ノ島に日帰りで通うか、近隣で宿を手配しなければならないというものです。
実はこれがヨットの授業を受講する一つの大きな決め手になりました。
授業後はAirbnb使って仲良くなった人々と過ごし、しかも朝夕は海岸線を自転車を漕いで行き来する。
ドラマに出てきそうなThe夏休みの青写真が描けたのです。早速探してみたところ、自転車付きで海岸近くの物件が見つかったのでそちらに申し込み。Airbnb自体は使い慣れているのでオーナーとのやりとりも問題なく完了。由比ヶ浜付近の宿から江ノ島までの7キロほどを朝夕それぞれ自転車で往復するプランです。
授業初日朝、俺は前日には宿に入っていたので、いざサザンの楽曲や山PのSummer Nude 13をセットして自転車を走らせました。
さあ、授業に行くぞおおおお
出発は午前8時。夏休みが始まったばかりの湘南は毎日賑わいを見せていました。この由比ヶ浜から江ノ島の一帯でどれほどの青春夏物語が繰り広げられてきたことでしょう。
夏の日差しが体を火照らせはするものの、やはり潮の香りをふんだんに含ませた海風が心地よい。7キロほどの道のりは、少々の坂道あり、稲村が崎などの寄り道スポットありと、非常に豊かなコンテンツを擁していました。
そんなこんなで江ノ島に辿りついて授業へと向かいます。ヨットの授業を一通り楽しみ、終礼をすませると小腹の空いているのに気がつきますが、ここ江ノ島にはたくさんの飯屋があります。しらす丼なんかが有名でしょうか。
受講生と腹ごしらえを終えて、宿に戻るため自転車に再びまたがります。もうあたりは暑さが幾分和らぎはじめ、西陽がとても幻想的。ここ江ノ島の夕日は季節問わずいつでも壮大にして芸術的な眩しさを放っています。
美しい夕日を背にして7キロの復路へとペダルを踏みしめます。
海岸は、昼間までの喧騒が嘘のように落ち着きを取り戻してしまったようです。明くる日も再びリア充たちの憩いの場と化すであろう、ここ江ノ島一帯。
しかしこの海岸線沿いはほんとうに夕日が美しい。
相模湾に面したこの海岸沿いは、暴風が吹き荒れることもしばしば。ヨットの授業初日、公式発表によると8メートルもの波の高さが記録されたそうです。まさに自然の厳しさとその美しさとはコインの表裏そのものです。
7キロの道のりを寄り道を繰り返して1時間以上かけて宿に戻ります。宿に戻るころには太陽は地平線の向こう側へとその姿を隠していました。
宿では長期滞在の方や、短期の休暇に日本にやってきたという外国人旅行客がいました。
写真は宿泊客のお兄さんがその腕をふるってくれたキーマカレー。ナスとチーズといったシンプルな具材に、辛さと香ばしさがうまく合わさったキーマカレー。これを口にした数名の宿泊客のみんなは一様に「シェフ」の腕を絶賛していました。
食後はリビングで談笑したり戸外で一服、はたまたどこかへ姿を消していったり。
Airbnbを活用して、ただの日帰り授業をとてつもなく有意義なものに仕立て上げてしまいました。普通の授業とは違った、もはや日常とは異なる時間を過ごすことができたのです。
ちなみに、かつては早稲田の受講生は一つ屋根の下で4日間を共にしていたそうですが、やはりヨットの授業は一人当たり受講費用が数万円どころではないので、その金額が受講生の数を減らしてきた背景がありました。なので宿泊場所をとらず、表向きは日帰りとすることで、ヨットの授業の受講者を増やしたいという思いが、講師ふくめヨット部関係者にあったそうです。
3. まとめ
なぜヨットの授業が面白かったのか、それはヨットの授業自体の珍しさに加えて、Airbnbを利用して授業をちょっとした旅行に変身させたことにありました。
ヨットの授業では小型と大型の2種類に乗船しました。ちなみに大型船に乗った初日は、波が高すぎて船酔いを起こし、受講生数人とともに甲板でゲロ選手権を敢行していました。
こうしてみると、「それってたまたま早稲田にヨット部があったから、そもそも大学生だから楽しめただけじゃないのか」と思われるかもしれません。しかし、俺がこの授業を通じて一番学んだことは、星の数あるほどの中からおもしろいものを見つけること、そして見つけたコンテンツをもっとおもしろく仕立て上げることの可能性というところに収束するのかなと思いました。
例えば大学には「玉石混交」と表現できるほど受講生にとって面白い授業とつまらない授業が入り混じっています。一手間をかけて調べてみたり、工夫を凝らして見ることで、その機会の面白さを無限大にまで引き上げることができるのではないでしょうか。早稲田にはたくさんの授業と思い出の数々があります。このヨットの授業はどちらの要素にもあてはまる稀有な経験でしたので、記事にしました。
風と潮の流れを体で感じ取りながら船を操り、クルーと船と海と自分、それぞれの呼吸を合わせていく。そしてうまく四者の呼吸がぴったりと合わさった時、船はそのポテンシャルを最大限に発揮します。
最高速度で海面を疾走するあの瞬間あの感覚、いまでも忘れらません。