東京フルスロットル

英語と地理と歴史を駆使したコンテンツが好きだったんですがもう仕事に毒されてしまったのです。

「男が消える」想像力をかきたてる一文を紹介します

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「日本語の奥深さ」がまことしやかに語られている現代社会では、「雅やかな日本語」にはそれなりの価値が認められている。僕らが普段何気なく使う日本語は外国人にとってこの上なく難しいものと形容されがち。

そんな「習得難易度の高さ」に直面しても、なお折れることなく勉強を続ける姿は、日本中から賞賛されるべしとして、日夜お茶の間に賑わいと感慨をもたらせている。外国人が素晴らしき日本語を身に付けんとする。その姿。「美しき日本」だとか、「世界の日本」だとか、ある種のノスタルジー溢れた文言たちは今日も人々の共同幻想を闊歩しているのだ。使い古されたニッポンマンセーの大合唱は21世紀が進めば進むほど耳に心地よい。

 

 

ちなみに今日ご紹介したいのは以下の一文だ。

この一文はぼくのなかでかなり興味をそそられたので備忘録として記述しておきたくてたまらない。

貧相な想像力が濁流を正面から受け止める。

 

 

おわかりいただけただろうか。

このツイートの言わんとすることもわからなくはないが、それについては後述。

何が素晴らしいかというと、

若い女が好きな男は

これだ。これに集約される。

この一文というより0.5文は、検定教科書顔負けの教材として認知されるべきだと僕は思う。それはいかようにも解釈の余地を与え、いかようにも読書者の想像をかきたてられるからだ。一部の読者はすでに夢かうつつかの境地をさまよっているにちがいない。

正確には複数パターン程度だが。

たとえば、

①若い、女が好きな男は

②若い女が、好きな男は

③若い女が好きな、男は

④若い女が好きな男は、

 

読点(トウテン)のつけ方がフレキシブルすぎるのだ。

驚愕の懐の広さとでも言えるだろうか。

まあ、というように、ツイッターだからこそなせる技が、災い転じて僕なりのわざとらしさに転じているようだ。

例えば①「若い、女が好きな男は」では話の主体が男であること一目瞭然。そんな確定情報に、青々とした若葉のような男の表情が目に浮かんではこないだろうか。

そして②「若い女が、好きな男は」については、おっと、それだけでは足りないようで、

「若い女が、『好きな男は判断力や地位の格差を利用してる』」って怒るんだけど

 と見直してみると、まあなかなかツイートの主旨がぶれてしまう。

想像してみてほしい。下校途中の電車の中で読書に夢中になった結果、思わず乗り過ごしてしまうかのような会話の断片。実は読点のうしろにはカギカッコが隠されており、大学生なのか高校生なのかは想像にお任せ、もう会話の途切れとほつれを探すのも困難な「おとこたるものかくたるべし」の大演説がなされようとしていやしないだろうか。失礼。ただただ意味が取れないのだけなのだ。

問題は③だ。こちらは本当に深刻だ。とりあえず飛ばす。

最後に④「若い女が好きな男は、」

これがなんだかんだツイート主のいわんとした文であろう。おそらく主は、女好きな男を主語にして、ハンティングの対象となる女性の年齢には、加齢の概念が適用されないとでも思ったのだろうか。不老不死にて若いまま(ママ)。女の理不尽な憤り、それも年齢差からくる情報の非対称性に行き場のない憤りが表明されている。が、彼女らが置かれた状況というのは全くもって「一般常識」の尺度に照らし合わせると「ご法度」扱いになるのだそうで。とはいえなぜ彼女らが憤っているのかもちょこっと読み取れないのが余計に想像力を掻立てる。

 

さて、先送りした問題について。

③をもう一度だけ見てみよう。

 

③「若い女が好きな、男は」

 

みなさんはこれに何を感じられたであろうか。

 

「若い女が好きな、男は判断力や地位の格差を利用してる」

なんとも物珍しい修飾語関係がいままさに産声をあげている。

問いたい。あなたはこの産声に何を思うか、僕が思ったのは「男の透明化」だ。

「男」が、たったいま、あの文の一部で名詞の役割をまっとうできずにいる。

「男」が、あのカギカッコの真ん中で、仕方なく何か存在感を示さなければならないとして、窮地に追い込まれている。

「男」は形容詞になったのだろうか。

形容詞は名詞を修飾するし、副詞は形容詞を修飾する。つまるところ「男」が「男」でなくなっているのだ。「男」は、なんにも形容できていない。そして自らを自らで規定できていないのだ。

僕はただただ文章の中で立ちすくむ「男」の姿が哀れでならない。いまこの文脈で「男のリスペクト」が失われている。僕らが目の当たりにしたのは同情の余地そもの。ポジションを固められなかった脱落者の烙印が「男」に施されようとしてる。

 

というわけで話を戻しながら、「男」を実際に排除して一般的な表現にすり替えた結果、最初の文章はいかように変化するのか確認しておこう。

 

「若い女が好きな〇〇は判断力や地位の格差を利用してる」 

 

〇〇に実在する人物の名を当てはめたくならないだろうか。

一呼吸おいて考えてみてほしい。

世の中にありふれた「日本人」「外国人」「女性」「男性」といった一般的な名称は「主語がでかい」として様々な場面で「ブレークダウン」を要求されがちだ。はてな界隈は特にそう。だが前述の一文を確認したい。一般的な表現がいかに無難で、誰の名誉も傷つけない「大人の風格」を漂わせる力を持っているかどうかである。

 

さて、もしこの〇〇に役職が入るとどうなるのだろう。

 

「若い女が好きな部長は判断力や地位の格差を利用してる」 

 

一気にやばくなったでしょ?

 

今度は部長が消えそうで。