東京フルスロットル

英語と地理と歴史を駆使したコンテンツが好きだったんですがもう仕事に毒されてしまったのです。

ゆとり新卒が意識高い系ゆとり2年目に啓発してもらった話

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仕事以外に3つのアクティビティーコミュニティーコミットしなければ成長は望めない。なあ聞いたことあるだろ?

 

本稿は12年ぶりに再会した小学校時代の友達との会話の一部始終である。俺は浪人していたため現在新卒社会人であるが、彼は2年目の社会人である。彼から発せられる言葉は非常に狂気じみていて勉強になった。

 

それは金曜日の夜8時頃であった。場所は地元のドトールである。俺はいつものようにアイスコーヒーをカウンターで注文し、空いているカウンター席に腰を落ち着けた。そこでブログ記事を執筆するためにPCを鞄から取り出しているところであった。

 

テーブルの端に置いてある満タンのアイスコーヒーに注意することなく、Wi-Fiルーターへと手を伸ばした。コツン。ビリャビションガッシャーン。

やってしまった。

誤まってアイスコーヒーに自分の肘がぶつかり、地面に叩きつけられた満タンのグラスが見事な炸裂音を発して最後の散り際を彩ってしまった。その悲鳴にも似たガラスたちの叫びが店員を呼んだ。すると呼ばれるはずのない名前が隣の隣の席から聞こえてきた。

 

「東京フルスロットル!(以下、東京)お前小学校以来だな!覚えているか!ゆとり2年目の意識高い氏だよ!なつかしいな!しかもこんなところで会うなんて!」

 

何とも間の悪いやつである。目の前の意識高い系ゆとり2年目の顔と名前を一致させるのに数秒の時間を要したが、奏功した。しかし俺が実に決まりの悪い表情をして店員と片付けに励んでいるのをまるで気にもしないご様子だ。彼は地元での思い出話や小学校の時のエピソードを饒舌に語り出した。彼の話に相槌を打てば店員が嫌な顔をし、一方で彼の話を流せば彼の雄弁がその音量と薄っぺらさを一挙に増大させていくのだ。大人の振る舞いについての見解を後で議論せねばならない、苦虫を噛み潰したような表情で砕けたグラスと飛び散った液体の始末を終えた。

 

「まあ隣に座れよ!久しぶりだな」

彼にはボケとツッコミの概念が乏しすぎる。今しがたの俺の恥ずべき光景についてとやかく言ってもらえれば気も休まるというものであるのだが。

近況やら成人式の様子を一通り話し終えたところで遂に彼がその姿を露わにしてきた。

   

1. 仕事以外の活動が大事なんだよ

彼はこう話し始めた。

「仕事以外に3つのアクティビティーコミュニティーコミットしなければ成長は望めない。なあ聞いたことあるだろ?」

まったく聞いたことなどなかったが理解の範囲ではあった。察するに、平日昼間の仕事以外にも、副業をする、あるいは地域や業界コミュニティーに顔を出して何らかの活動や勉強会に時間を投入するといったところであろうか。

 

俺はその手のアクティビティーには消極的であったし、仮に趣味の話であればブログのことについて話そうかとも思ったが、彼にとってはとるに足りないことだと思ったので、彼の話を続けさせた。妙なカタカナ横文字はひとまず棚に上げたのだ。

 

「俺はいまの会社で順調にステップアップして、クライアントと周囲の仲間から信頼を獲得したい。ゆくゆくは社長になりたいんだ。その目標に向けて逆算、課題を浮き彫りにして日々仕事に全力コミットしてきた。だが気がついたんだ。仕事以外に3つのアクティビティーにコミットしなければ自分の限界を超えられないと」

 

なるほど、将来的に会社を背負う覚悟とはこのことであろう。彼を当初ただの意識高い系と断定した自分を呪ってやりたくなくもない。このあとの彼がどんな発言をするかに少しの期待を寄せていた。そしてふむふむと納得して見せた様子で素朴な返答を彼にぶつけてみた。

 

「え、どんな活動をしているかって?そうだなあ、例えば異業種交流会のパーティに参加するだけじゃなくて、地元の2つのコミュニティーに積極的にジョインするようにしているんだ。こうした小さな積み重ねがいつか大きな花を咲かすようになるんだ、って自己啓発本に書いてあったんだ

 

 

まじか(笑)

 

 実に誇らしげであり、それでいて照れくさそうな表情をまったく隠す様子がない。「ジョイン」の意味をググる時間を割く前に、俺は素直に喜びに浸りたかった。自己啓発本からの直接引用はデカい。

期待値を大きく上回るその返答には実に満足であった。彼の振る舞いを確認したあたりからこれは記事にできるレベルのネタとなるに違いないと考えていたからだ。しかしその予想は彼の実力を過小に見積もっていたらしい。反省反省。

 

「で?東京は何してんの?なんかやってんの?」

 

君のような積極的な活動などは特別何もやってないよ。感心させられるわ。と社交辞令を申し述べてヨイショしたところ、この世のものとは思えぬほどの優越感に浸った様子が垣間見えたので、こちらも大満足であった。

 

「東京も何かはじめたほうがいいよ。いきなり僕みたいにとは言わないけど、やっぱりまず自分の付き合いの幅を広げてみることだと思うんだよね。そうすると自分の視野も価値観も広げられるしね、きっと自分のキャリアのプラスになるよって自己啓発本に書いてあった。」

 

メモメモ(笑)

   

2. 一人暮らしは大切だよ

「東京は一人暮らしなのか?」

俺は実家の温室育ちで出荷の予定もたっていない。彼にこう伝えると、お前は婿になるのかと言われるかと思ったのだが、相変わらずツッコミがない。

 

「ぜったいに一人暮らししたほうがいい。」

 

なんて教えを賜った。すごく力強いお言葉だった。彼はきっと社会人生活2年目を迎えてある程度の「大変さ」というものに揉まれてきたのであろう。

 

「理由は2つあるんだ。あ、まずは理由がいくつあるのかってのを数字で教えてあげるようにしてるんだ。これはロジカルシンキング系の本で勉強したんだけどね。それでね」

 

お、おう。

 

「一つ目は、地元の良さを再確認するためだね。やっぱり地元を離れて初めて客観的に見つめ直せると思うんだ。俺たちの地元はやっぱり税収も安定しているし水道代も安いじゃないか。娯楽もなくはない。」

 

なるほど。それは確かにそうだ。

 

「二つ目なんだけど…」

 

ここで俺は2つ目を予想し始めていた。おそらく、自分の給料で自活する能力がどうのこうの、というものだと思っていた。これは一般的には一人暮らしを経験してきた身でしか語ることは難しかろう。しかし彼はまたもや期待値を大幅に上回ってきた。

 

「ちょっと言いにくいんだけど、親と喧嘩しててね…」

 

なんと彼のご高説の基盤は実家暮らしの現在から生まれた妄想そのものであったようだ。机上の空論を弄されているだけの哀れなトピックだったのだ。俺はてっきり一人暮らしの先輩から素晴らしいアドバイスを享受できると身構えていたのにだ。しかしこれほどまでに最上級の愉快な話が彼の口から出てくるとは、やはりゆとりの呪縛から逃れらる日は近くはなさそうだ。

 

「まあ、まだ実家暮らしだけどね」

 

それを先に言え(笑)

 

3. 結婚とかのライフプランニングはできているかい?

話題は恋愛に。

 

「東京は彼女とかいるの?」

これについては特に意図もなく、彼女などいない旨を答えた。相手が次にどんな言葉を並べてくるのかわからなかった。また一風変わったアドバイスを賜われるのだろうか。

 

「僕も彼女がいないんだよ。」

 

そか。この話題くらいから少し疲れを感じ始めていた。

 

「やっぱりさ、自分に一番ふさわしいと思える子と付き合いたし、そんな子じゃないと結婚まで見据えたプランニングができないもんね」

 

ほお。

 

「自分にふさわしい」とは非常に傲慢な表現であるが、ぱっと見では人が良さそうな彼なのでその表現と外見がキチガイじみて対照的な印象を与えるのである。それでいて結婚まで将来設計に入れるためには「自分にふさわしい彼女」である必要性は感じられなくもない。その「未来の彼女さん」がどう思うかは別として。

 

「で?東京はどれくらいの期間彼女がいないんだ?」

 

正直に誠実に1年半ほどいない、と彼に伝えた。意外なことに、彼が以前に浮かべた優越感たっぷりの表情とはまったく違う性質のそれが穏やかな顔を飾っていたのだ。

 

「おお!同じくらいか!おれも2年半くらいいない」

 

 

まじか(笑)共感された(笑)

 

 

 「やっぱりさ、自分にふさわしい子が現れるまでは、じっと待たなきゃいけないんだと思うだよね。だからこれはいろんなコミュニティーに顔を出している一つの目的ではあるんだけどね。なかなか分かってくれる子がいない。お互い切磋琢磨して成長しようって子がね。

 

その切磋琢磨したいって、おま。自分の無知無能を誇るつもりはないが、そんなニーズをお持ちのお姉さん市場があるとは存じ上げない。あったとしても相当ニッチな市場に違いないのではと思った。そして相席屋に30回以上も通って女の子と遊んだことなど言えるべくもなかった。素晴らしい女の子を待つという彼の姿勢には感銘を受けていたのだが、

 

 

そりゃ彼女いねえわ(笑)

 

 

属性の違いと意識の高さの違いが俺たちの目の前に越えられない溝を形成していた。彼は続けた。まだいろいろと親切に自論を展開してくれたのだ。言葉の少ない俺が妙に頼りなく彼には映ったのだろう。俺にはまるで軸や大事とする価値観がないと判断されたのであろうか。

 

「東京は彼女いそうなのにな!意外だわ!ふつーに話せるしコミュ力あるし、なんで彼女できないんだろうね。うーん。ふつーにしゃべれるのになあ」

 

だまれ小童(笑) 

 

「たぶんね、ぼくみたいな気さくなやつだと話せるんだろうけど。もっと積極的に女の子と話さなきゃいけなんだろうな。せっかくいいやつなのにな。消極的なんだろうな」

 

最初から彼に他己啓発を依頼するべきであったのだろうか。

 

俺はふと会話を振り返ってみた。嵐のような激しさと深海のような静けさ、そしてかつてローマ人たちの憩いの地を一瞬で飲み込んでしまったヴェスヴィオ火山の噴火とが同混在したカオスな時間であった。そして終わってみればあっという間の2時間であった。彼の取り組みが旋風を巻き起こすであろうその時が実に待ち遠しい。彼の引き出しの多さと話のネタ化能力にはつくづく啓発されそうだ。

 

 

 

しかし騙されてはいけない。これはゆとり世代の一側面に過ぎないからだ。本当のゆとりというのは、都知事の「政治とカネ」問題にも明るいのである。

 

「ぼくはね、政治家になることにも興味あるんだよね。都知事のあんなお金の使い方、ぼくなら絶対にしない!」

 

 

おれなら絶対にばれない!

 

 

悲しいかな、これがとあるゆとり世代の力強い語録集である。