東京フルスロットル

英語と地理と歴史を駆使したコンテンツが好きだったんですがもう仕事に毒されてしまったのです。

【恥ずかしい】東大のセンター試験会場でインタビューされたときの話

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もう何年も前の話になります。僕は東京大学でセンター試験を受けたんですが、何より印象的だったのは、こんなパンピーの僕もインタビューを受けたってことです。

 

赤門近く。カメラマンとインタビューアーの二人。2日目の試験を受けに会場入りしようとした僕に、二人は近づいてきました。

「おつかれさまですー。よろしければインタビューさせてもらえませんか?」

   

なんてことでしょう。右も左もわからぬ10代の受験生が、試験会場のおかげで全国デビューをかまそうとしている!

センター試験といえば1月の上旬から半ばに行われる試験。日本でもっとも寒い時季にあたるので、「センター試験では首都圏でも少なくない確率で雪が降るのだ」なんて言われるほど。大学受験の開幕といい、天気といい、センター試験はお茶の間のひとときを彩るコンテンツとしてはある種の風物詩のような感じもします。

あれやこれやと考えながら、試験どころではない興奮に包まれた僕は快くインタビューに応じるのでありました。

 

僕「はい。僕でよければ承ります」

 

カメラマン「」

インタビューアー「どうですか?手応えの方は?」

カメラマン「」

僕「そうですね、ぼちぼちってところです。」

カメラマン「」

 

インタビューアー「なんでも、今年は一気に難化したと聞きますがいかがでしょうか?」

カメラマン「」

僕「そうですかね…僕は例年とそんなに変わらないと思いますが。」

カメラマン「」

 

インタビューアー「そうでしたか。割と多くの生徒さんは難しかった!なんておっしゃっていますよ?」

カメラマン「」

僕「」

カメラマン「」

 

当たり前のようなんですけど、カメラマンって本当に一言もしゃべらないんですね。黙々とカメラを回し続けて、子犬のようにキョトンとする僕を映し出し続けています。その様はプロフェッショナルそのもの。おかしくないのに笑い出してしまいたくなります。

 

それにしてもこのインタビューアーは、どうしても僕の口から「難しかった!」の一言を引き出したい模様です。どうしても。

けれどその年の問題は例年並みか、それより簡単な年だったらしく、平均点も上向き傾向でした。そのため、センター試験の直前まで英語で7割ほどしか取れなかった僕も、簡単な問題に圧倒されて初日は9割以上の得点を獲得しました。(センター試験直前に力がめっちゃ伸びたのもあります。ただ、2日目の理系科目が目も当てられないほどこけていました笑)

僕は(あくまで1日目の段階では)どうしても「難しかった」なんて言えないのも当然です。決して調子に乗っているわけではありません。

このような状況ではインタビューアーは最初のちょっと高めのテンションを維持することができないようです。「難しかった!」という生徒の表情を集めて報道したいのでしょうか。ひとの不幸には蜜の味がするとでも言うのでしょうか。

 

インタビューアー「今日は二日目ですね。最後に意気込みを語ってくれませんか?」

カメラマン「」

僕「はい。2日目もしっかりがんばりたいです。」

 

カメラマン「」

インタビューアー「ありがとうございました。試験がんばってください」

僕「はい。ありがとうございます」

カメラマン「」

 

試験問題に関するインタビューの違和感は直後においては顕在化していませんでした。インタビューを受けるだなんて!と舞い上がってたのもあり、インタビュー後にすぐに友人や家族に「インタビューされたからよろしく」なんてメールを投げたものです。インタビューとかテレビカメラとか、まるで僕にとって異世界ですから。

 

そしてセンター試験が無事に終了すると、予備校界隈がセンター試験の傾向と回答について発信し始めました。そこにはやはり「易化」の文字と「例年以上の平均点が予想」なんて言葉が踊ります。

そこでインタビューアーがまるで「難しかった!」と言わせたくてしょうがないような話のもっていき方だったのを思い出します。僕はそれに違和感を覚え、やはり僕の手応えに間違いはなかったのだ、あの試験問題は簡単な方だったのだ、と妙に納得しました。(だだし理系科目を除くきます…)

 

そして登校日。いよいよ来ました。華々しく全国デビューをかましたであろう僕が、ついに友人たちからチヤホヤされる日。

僕は校門の内側に入る前に一呼吸をおきました。だってもしかしたら僕の姿をテレビで見ている人がいて、彼らが僕のもとに駆けつけないとも限らないですから。そんなときには得意すまして語ってやろう。いまだかつてこれほどまでに承認欲求が満たされたことがありましょうか。

覚悟を決めて校門をくぐる。先生とすれちがう。友人とはちあわせる。一緒に歩き始める。

 

あれ?

 

仕切り直しとしてもう一度深呼吸。玄関で靴をぬぐ。上履きをはく。階段をあがる。教室に入る。

 

あれ?

 

なぜだれも僕にインタビューについて「インタビュー」しないのでしょう。

まだこのような状況に理解がおいつきません。何が起こったのかわからないままとりあえず教室の自席でカバンを置きます。すると教室の隅には、とある男子生徒を中心にして何人かが彼を囲っているのでした。彼とみんなの会話は以下のよう。僕は聞き耳を立てます。

 

「おお!テレビ映ってたよ!VTRだけどまじで笑ったw」

「いやあ、おれもびっくりしたよ、インタビューされるなんてw」

「しっかしお前も謙虚だよな。満点近くとったのに、むずかしかったです!なんて言っちゃうんだから」

 

彼らの会話を聞いて、僕は自分がインタビューを受けた記憶を抹消しました。神様ごめんなさい。